Sep 27, 2015

駅伝、数学、そしてランボー "Ekiden" Running Race, Math, and Rimbaud

日曜日の朝、気がつくと猫が私に乗っかってくる。朝以外に猫が私の上に乗ったりすることはない。これはうちの猫の日課である。

猫は時計の読み方を知らない。しかし、猫は体内に時計を持っていて、それに基づき行動しているフシがある。

先週金曜日、私は職場の駅伝大会に参加した。個人の記録的には、去年よりも30秒ほどタイムを縮めることができた。それが何よりも私にはうれしかった。天気がとても良く、暖かくて、観衆の数も多かった。

スタート30分前に、準備運動として、1.4マイル(2.2Km)ほどメンバーの仲間と一緒に走った。これで体がほぐれたように思う。また、この一年、週に二、三回は、職場地下のフィットネスジムで走る等を心がけてきた。

0.7マイル(1.1Km)の距離を走るのに4分30秒というのは、一般的に大した成績でないかもしれぬ。しかし、40歳台も半ばに入り、1年間で自己タイムを30秒縮めたことで、これからも頑張ろうと自分に言い聞かせられてうれしい。

ここでの駅伝は、8人で1チームの競技であるが、同じ部署のメンバーらとタスキを渡して走るという競技は、やってみると、チームワークの美しさや楽しさが分かる。成績は39チーム中、9位であったが、決して悪くはない。(他の同僚らが走りが得意で、それに私の遅さをカバーしてもらった。)

土曜日は、ユークリッド(Euclid)の著した幾何学の古典『エレメント』を私は読んでいた。それを読むのに疲れると私はTECHNICAL COLLEGE SERIES NATIONAL CERTIFICATE 'MATHEMATICS'のページをめくった。

理由が自分にははっきり分からないが、数学の問題をやるとアルチュール・ランボー(Arthur Rimbaud)の詩集が読みたくなる。特に、彼の後期の作品集『イルミナシオン』は、数式のような、そうじゃないような不思議な思いに囚われる。(それにつけても、"Illuminations"という字づら、その響きが脳裏にうつす投影のなんという鮮やかさ!)

日本で仕事をしていた頃をふと思い出す。CATIA (3D CADソフト)のMold Tooling Designのワークベンチで作業していた時だったが、ピンやプレートがあって、そこにはルールがいくつもあった。そうした各コンポーネントの関係性を見るにつけ、やはりなぜだか分からないけれど、私はバッハの音楽を何度となく連想したのだった。

詩や音楽を連想しながら仕事をするのは、良い兆候だと、私の直感は教える。
それは辛い日常を紛らすべく音楽に逃避する、というのとは真逆の現象である。

群馬県に所在する客先には週に二、三日の頻度で訪問した。
CATIAを使って仕事した最初である。あの時は1から手取り足取り当時リーダーをされていた方から教わった。毎日自分が何かを学び取っていて、成長しているのが、はっきり体で分かった。帰りの電車内で、自分は静かに感動していた。

この時における連日の感動こそが、その後に別の場所で経験した辛さとかパワハラとかを何とか乗り越えられ、さらに躍進できた要因の一つであったのだと今になって私は思う。

群馬県でのホテル滞在、チームでの食事、銭湯で汗を流す等を通じて、仕事を頑張った。

焦ったりイライラしたり、真冬なのに緊張して汗流したり、ノートPCを毎日バックパックで担いで肩凝ったり、世間話したり、そうやって仕事をしていたわけだ。仕事を通じた青春と呼べるものがあるとすれば、この時だったと私は思う。私は当時すでに三十代半ばを過ぎており、日本の常識では「青春」とは言えないのかもしれないけれど。

あれから7年ぐらいが経った。

時間の経過と、回想する現時点の自分とを直截に繋ぐこの「何か」を意識した時、ふと考える。
少なくとも過去とを行き来するタイムマシーンは、脳内における記憶の操作で可能だったりして、とか夢想したり。

ところで、この日曜日の夕方は、いつものように日曜の夕方らしかった。

私にとっての日曜の夕方は、サリーン市街地に向かうミシガン通りの光景である。
交通量のまばらさと、傾いた西日と、閑散としたような99セント店の駐車場と。


シャルル・デュトワ指揮、モントリオール交響楽団によるベルリオーズ『幻想交響曲』をたまたまYouTubeで聴いた。1楽章のはじめの数分を聴き、オーケストラの響きだけで、今までに感じたことのない感動で心が震えた。この曲で涙を流しそうになるほどの感覚に陥ったことはそれまでなかった。楽器から発する音それ自体が美しいのみならず、それが心の琴線に触れ、エモーショナルにさせるというのは、録音の魔術であるのか、演奏の魔術なのか、作曲者の魔力であるのか。



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